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  • 川の窒素はどこから来る?大気をきれいにしたら水質はどれだけ良くなるか

公開されている長期観測データだけを使い、大気中の窒素酸化物を減らした場合に河川の窒素負荷がどれだけ下がるかを推定した研究です。

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川の「栄養の入れすぎ」と、見えにくい大気の影響

川や湖に窒素やリンが多すぎると、藻類が異常に増え、水が濁ったり、魚がすみにくくなったりします。これを富栄養化と呼びます。対策を考えるときには、「生活排水や工場、農地から入る分」と、「空気中の窒素酸化物(NOx)が雨やちりとして地面に落ちてくる分」を分けて見積もることが大切です。 ところが、大気から落ちた窒素は、すぐに川へ出るとは限りません。長いあいだ土壌や地下水にたまり、あとから少しずつ出てくる「レガシー(過去の蓄積)」もあります。すべてを完全に切り分けるのは、とても難しい問題です。 そこで神奈川県環境科学センターの北岡勇樹さんと、本学の松本正和准教授は、「全部をきれいに分離する」のではなく、「大気をきれいにしたら、川の窒素はどれだけすぐ減るか」という、現実的な問いだけに絞りました。この「すぐ減らせる分」を、改善余力と呼びます。

リンとつき合う窒素、つき合わない窒素

研究の材料は、新たに川へ行って測ったデータではありません。すでに公開されている長期の水質データと、大気中のNOx濃度です。追加の調査なしに、手元の記録から診断できるようにするのが狙いです。 水質が安定しているとき、川の全窒素(TN)と全リン(TP)は強く連動します。生活排水など流域からの汚れは、窒素とリンがセットで出てくることが多いからです。逆に、リンと一緒に動かない窒素は、別のルート——大気から来た成分の手がかりになります。 モデルでは、この「リンを伴わない窒素」(グラフでいう切片の部分)のうち、大気中のNOx濃度に0〜2か月という短い遅れで追従する成分だけを取り出します。大気の寄与が計算上マイナスになってしまわないよう、非負制約(ゼロ未満を許さない条件)も置いています。白衣ではなく、公開データと統計のルールで川のしくみを読む。これも化学・環境科学の大切なアプローチです。

大気をゼロにしても、減るのは約9%?

この方法を相模川水系の桂川に当てはめたところ、大気中の窒素酸化物が完全になくなったと仮定しても、雨の少ない水質安定時の河川窒素負荷が2021年時点で減らせる上限は、およそ9%と見積もられました。つまり、その流域ではいまも、排水対策などの「流域側」の取り組みの方が効きやすい、という診断です。 数字は小さく聞こえるかもしれません。しかし、「大気対策と水質対策のどちらを急ぐべきか」を、追加調査なしに素早く見通せることに意味があります。優先順位を間違えると、お金も時間もかかります。 高校で習う化学は、ビーカーの中の反応だけではありません。身の回りの川や空気のデータを読み、モデルを組んで「もし大気がきれいになったら?」と問うことも、化学の仕事です。環境問題の数字の裏側を自分で確かめてみたい人は、大学の理論化学にもぜひ目を向けてみてください。

参考論文

  • 北岡 勇樹, 松本 正和 (2026) “長期観測データに基づく河川窒素負荷の成分分離:大気由来負荷の改善余力の推定” 水環境学会誌, 49, 89-98. DOI: 10.2965/jswe.49.89

松本先生の研究をもっと知りたい!→理論化学研究室