コップ一杯の水の中では、何十億、何兆という数の分子が絶えず運動しています。私たちの目には透明な液体にしか見えませんが、その中では分子同士がお互いに引き合ったり反発したりしながら、複雑な世界を作っています。
私は、この「分子同士にはたらく見えない力」を理論とコンピュータシミュレーションによって理解する研究を行っています。
このような研究は、食品、医薬品、高分子材料、電池など、身の回りのさまざまな技術につながっています。
例えば、水に食塩を入れると、炭酸飲料の泡が抜けやすくなったり、タンパク質が沈殿したりすることがあります。また、「油は水に溶けない」ということはよく知られていますが、その溶けにくさも塩を加えると変化します。このような現象は100年以上前から知られていますが、
「なぜ塩の種類によって効果が違うのか」
という問題は現在でも完全には解決されていません。
私たちは、水・イオン・溶質を同時に扱う理論を構築し、
を計算できる理論を提案しました。
さらに、
「溶けやすさ」と「分子同士の引力」の間には簡単な数式で表される関係がある
ことを示しました。これは従来知られていなかった理論的な結果です。
イオンだけでなく、アルコールなど別の溶媒を混ぜると、さらに不思議な現象が起こります。
ある溶質分子はアルコールを好み、別の溶質分子は水を好みます。
すると、同じ種類の分子同士は強く集まりやすくなったりします。 私はこの現象を説明する熱力学理論を構築しました。
この理論によって、
など、一見別々に研究されてきた現象を一つの考え方で理解できる可能性を示しました。
近年は理論だけでなく、摩擦現象に関する分子動力学シミュレーションにも取り組んでいます。
摩擦は高校の物理でも習いますが,表面における化学反応,塑性,熱散逸など様々な現象が絡み合う大変複雑な現象で,現在でも活発な研究が行われています。 例えば、自動車や電気自動車では、金属同士がこすれ合う部分の摩擦や摩耗をできるだけ小さくすることが重要です。
しかし、実験だけでは、金属表面で原子がどのような化学反応を起こしているのかを見ることは簡単ではありません。
そこでコンピュータを用いて、原子一つ一つの運動をシミュレーションします。
最近の研究では、二酸化炭素(CO₂)中で鉄同士を滑らせると、表面に炭素を多く含む保護膜(トライボフィルム)が形成され、それによって摩擦や摩耗が大きく低下する仕組みを原子レベルで明らかにしました。私自身は、この反応過程を解析する反応性分子動力学シミュレーションを主に担当しました。
私の研究は、化学・物理を組み合わせることで目に見えない分子の世界を理解しようとするものです。
身近な現象について「なぜそうなるのか?」を考えることが好きな人には、とても面白い研究分野です。