ニュースなどで「メタンハイドレート」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。このように、水分子が結びついてカゴ状の網目(ホスト格子)を作り、その中にガス分子(ゲスト分子)を閉じ込めた物質を総称して「ガスハイドレート」と呼びます。 中に入るガスの種類や比率によって、水が作るカゴの形や組み合わせ(結晶構造)は変化します。しかし、理論上考えられる無数のカゴの組み合わせの中から、現実に安定して存在できる構造を見つけ出すのは非常に困難なパズルでした。
これまで、あるカゴの構造が安定かどうかを調べるには、スーパーコンピューターなどを使った計算コストのかかる「分子動力学シミュレーション」に頼る必要がありました。 そこで私たちは、「VOP(Vertex Order Parameter)」という新しい指標を提案しました。これは、水分子のつながり方の「幾何学的な特徴(ネットワークトポロジー)」だけを計算して数値化するものです。この指標を使うと、「このつながり方ではカゴが力学的に不安定で壊れてしまう」という構造を、大がかりな計算をする前に素早く見抜いて排除できるようになります。
さらに私たちは、2種類以上のガスが混ざった「混合ガスハイドレート」に注目し、ゲスト分子の種類や混合比が結晶構造に与える影響を考察しました。 計算の結果、一種類のガスだけでは作れないありふれた構造であっても、「ほんの微量の別のガス(第二成分)」を混ぜることで劇的な構造変化(相変化)が引き起こされることが示されました。これにより、これまで誰も見たことのない新しい安定な結晶や、特定の条件下でのみ存在する珍しい結晶(準安定相)を意図的に探し出せる可能性が高まりました。
この研究は、ガスハイドレートを効率よく利用するという工学的な応用を見据えるとともに、「美しい結晶構造を持つ物質」としての側面を強く意識しています。 白衣を着て実験器具を扱うだけが化学ではありません。プログラミングや物理化学の理論を駆使し、コンピューター上で物質の隠されたルールを解き明かし、新しい結晶を予測する。それが「理論化学」の醍醐味です。パズルを解くことや、「なぜ物質はそんな形をしているのか」という根源的な問いに興味がある方は、ぜひ大学で理論化学の世界に触れてみてください。