私たちが普段目にする水は、液体か、固体の「氷」として存在します。氷にはたくさんの種類があることが知られていますが、実は鉱物の中にも、特殊な環境で存在する水分子の集まりがあります。 「マーティアイト (Martyite)」(化学式:Zn₃(V₂O₇)(OH)₂・2H₂O)という鉱物は、その内部にハチの巣のような形をした空間(多孔質フレームワーク)を持っていて、そこに水分子(H₂O)が閉じ込められています。 この水分子は、まるで「2次元の氷」のように整列していますが、室温では水分子はそれぞれが自由に回転しており,氷の水分子のように決まった向きをとっていません。
この研究では、実験チーム(静岡大,その他)と理論チーム(岡山大)が共同で,これまで調べられていなかったマーティアイト中の水分子が、実は低温で特別な「秩序」を持っていることを明らかにしました。 室温ではランダムな配向(分子の向き)をとる水分子ですが、特定の条件下では、6つの水分子が環状につながり、「水素結合」(水分子同士をつなぐ弱い結合)でできたドーナツ状のグループ(トロイダルH₂Oヘキサマー)を作ることが分かりました。 このドーナツ状のグループが特定の向きに整列する現象を「フェロ軸秩序」と呼んでいます。これは、磁石のN極とS極が揃う「強磁性」のように、ある方向への「軸」が揃う現象と似ています。
この「フェロ軸秩序」の発見は、マーティアイトが「2次元の氷」を研究するための理想的なモデル材料であることを示しています。 水分子は、温度や圧力によってさまざまな種類の氷(多形)を作ることが知られています。私たちの身の回りにある氷だけでなく、地球の奥深くや宇宙空間には、まだ見ぬ不思議な氷がたくさん存在すると考えられています。 この研究は、鉱物中の特殊な環境で水分子がどのように振る舞い、どのような新しい秩序を作るのかを理解する手がかりとなります。将来的には、水が持つ多様な結晶構造(多形)の謎を解き明かすことにつながるかもしれません。