条件をうまく整えて銀イオンを還元すると,溶液の中で図(左)のような銀の樹状構造が成長します.これは,幹から枝が伸び,さらにその枝から細かい枝が分かれるという,本物の木にそっくりな形をしています.このような複雑な構造が,自然に作られることはとても興味深い現象です.
銀の樹状構造の大きさは 10〜100 マイクロメートル程度で,肉眼では観察できません.しかし,光学顕微鏡を用いると,枝分かれした様子をはっきりと見ることができます.構造は先端に向かうほど細くなっており,その先端には 20〜30 ナノメートル程度の非常に小さな突起が多数存在します(1 ナノメートルは 10 億分の 1 メートルです).これらの突起は,電子顕微鏡を用いなければ観察できません.
銀の樹状構造は,興味深い光の性質をもっています.図(右)は,暗視野光学顕微鏡で撮影した写真です.暗視野光学顕微鏡では,光を強く散乱する物質だけが明るく見えるため,周囲は暗くなります.この方法で観察すると,銀の樹状構造には,赤・緑・橙・青など,さまざまな色の明るい点が見えます.
これは,樹状構造の先端にあるナノサイズの突起に光が強く集まるためです.突起の形状や大きさがわずかに異なることで,集まる光の色(波長)も異なり,結果として多彩な色として観察されます.そのため,銀の樹状構造は,可視光だけでなく,人の目には見えない近赤外線を含む広い波長域の光に対して強く応答します.
私たちの研究グループでは,銀がどのように樹状に成長するのかを調べたり,「この形状ならでは」の光学的性質や機能を研究したりしています.樹状構造には,表面積が非常に大きいという特徴もあります.最近では,金の樹状構造についても研究を進めています.これらの貴金属の樹状構造は,光を利用したセンサーや,新しい光学材料・デバイスへの応用が期待されています.
銀樹状構造の電子顕微鏡像(左)と暗視野光学顕微鏡像(右)
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